※当ブログの趣旨※

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某映画雑誌編集者との酒の席で「映画レビューを書くべき」と勧められ、「チラシの裏で良ければ」と開始した、基本は身内向けの長文ブログ。
決して知識が豊かとは言えないライト映画ファンが中の人です。

・作品を未見の方には、(極力ネタバレせず)劇場に足を運ぶか否かの指針になれば
・鑑賞済みの方には、少しでも作品を振り返る際の余韻の足しになれば

この2点が趣旨であり願いです。定期的にランキングは付けますが、作品ごとの点数付けはしません。
作品によってはDISが多めになります。気分を害されましたらご容赦下さい。
たまーに趣味であるギターや音楽、サッカー観戦録、スノーボードのお話なども登場します。

2012/02/12

長文映画レビューシリーズ 『はやぶさ 遥かなる帰還』


はやぶさ 遥かなる帰還

2010年6月13日、7年間60億キロの宇宙航海を経て小惑星「イトカワ」の微粒子を地球に持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ」。世界初となるその偉業を支えた人々のドラマを描く。主演の渡辺謙がプロジェクトマネージャーの山口駿一郎に扮し、「犯人に告ぐ」「星守る犬」の瀧本智行監督がメガホンをとる。---映画.comより抜粋


"はやぶさクロニクル"映画化の、全天周(プラネタリウム)版、堤幸彦監督版に続く第三作。過去二作については、以前少しだけ触れました
当方のスタンスは、「はやぶさにまつわるストーリー最高!それだけで見所盛り沢山なのだから、映画化は無理に脚色し過ぎない方が良い!」と言う、ちょっと気持ち悪いレベルの「はやぶさファン」である事は先に表明しておきます。

この『遥かなる帰還』は、ポスター等を見ても分かる通り、明らかに20代後半~40代のオトナ世代をターゲットに創られています。若年層は、イケメンを主役に起用し画も飛び出てくれる『おかえり、はやぶさ』の方が楽しめるんでしょうし、もっとTV的な、言ってしまえば″ライト″な感動話が良ければ堤幸彦版を観ればいい。そうか、ちゃんと住み分けがされていたんだな、そもそも狙いが違うんだな、そう考えると竹内結子も報われるな、と今になって思ったりしてます。

そして本作のターゲットのド中心である当方は、男達が淡々と苦難に立ち向かい、フィクショナルな人間ドラマは極力抑えられたこの作品に素直に共感出来たし、これくらいのトーンが「はやぶさ」を描くには丁度良いのではないか、と考えます。


※以下、多少のネタバレが含まれます※


「はやぶさ」の肝とも言える、いわゆる「はやぶさ擬人化作戦」を今作は完全にスルー。あらゆるトラブルに立ち向かうプロジェクトチームの姿をじっくりと描き、それを見守る立場の"傍観者"が主にストーリーを紡ぐ。「新聞社の宇宙担当」という"傍観者"としてこの上なく分かり易い位置に夏川結衣を配し、家族の背景を掘り下げて加味した点、安易に「はやぶさ」を擬人化せず、語り部をちゃんと用意した点に、まず「それ正解!」と言いたい。彼女の目線で物語を追う事が出来るし、その感動的なストーリーを自分の実人生にフィードバックする、最も観客に近い立場の人物、即ち「はやぶさにヤラレちゃう人」の体現者として機能してくれたから。堤幸彦版で、"傍観者"と"物語の語り部"と"はやぶさ擬人化作戦"の全てを竹内結子に担わせてしまって、そのどこにも焦点が合わず、作品全体も中途半端になってしまったのとは実に対照的です。

プロジェクトチームも徹底して身近な存在として描くんですよね。研究所はボロボロでガムテープで床を修繕してたりする。ロケットを打ち上げれば振動で埃がコーヒーに落ちる。ボールペンをカチカチさせる癖のあるリーダーが居て、貧乏ゆすりが止まらない人も居て、商品として成功を収めたい企業のアイデンティティを貫く人も居る。そしてパーツの試作品は小さな小さな町工場で作られている。要するに「俺たち普通の日本人の小さな技術の結晶が、この奇跡を生み出したんだ!」という感動に集約させる訳です。これは「はやぶさ」の持つカタルシスのとても大事な要素だし、劇映画として最も共感を生み出せる、唯一と言っていい"勝因"だと考えますがいかがでしょうか。

逆に、そうした「普通の日本人」を序盤で長々と描写していくので、ここが映画的にヒマだなぁ、もっと大々的なコトが起こらないかなぁと退屈を覚えてしまう危険も秘めてると思います。しかしながら、部下の「NO」を悉く「YES」に変えていく、変える工夫を凝らす渡辺謙に「仕事ってそういう事だよな!」と思いっきり感情移入してしまった当方は、終始楽しめました。
中でも白眉は"はやぶさのラストショット"の描き方。単に1枚の写真だけで感動を煽るのでは無く、何枚も真っ黒な失敗画像を見せておいてからの…!という演出に、今作のテイストと醍醐味が集約されていました。ここは本当に素晴らしいシーン。

但し残念だった点も少なくは無くて、特に吉岡秀隆の、あの独特の粘度の高い演技は、正直ちょっとクドかったです。「商品云々も分かるけど、そこまで激昂する事か?可能性が有るなら、いち早くはやぶさを帰還させる事こそが最優先じゃね?」と。映画の尺から見ても、イオンエンジンが復活するか否かがクライマックスに当たるので、そこでクドクド我儘を垂れられるとイラっとしてしまうんですね。羅列される難解な専門用語の応酬にも特に解説はしてくれないので、全く「はやぶさ」に興味が無い層の鑑賞には耐えられないのも難点。ここは堤監督版を見習っても良かったのでは。

その他にも色々言いたい事はあるのですが、フィクショナルな要素は出来るだけ排し、エンドロールの最後の最後まで日本の宇宙開拓史への最大限のリスペクトを徹底した制作陣に拍手を贈りたくなる、良い映画だったのではないでしょうか。贅沢を言えば「はやぶさが見つかるパーセンテージ」のトリックとか「こんな事もあろうかと!」的盛り上げとか、面白くなる要素をもっと活かして欲しかったな、とも思います。しかしそれらを全て映画で描き切るには、「はやぶさ」には魅力が有り過ぎる、という事だとも思うのです。
"はやぶさクロニクル"未見の方は、是非とも全天周版と併せてご覧になってみて下さい!損は無いはず!!


あらゆる危機を様々な人々の活躍で乗り越え、最後は身を挺して地球にメッセージを届けた、"惑星探査機界のブルース・ウィリス"(当方が勝手に言ってるだけです)こと「はやぶさ」のアルマゲドンは、3月10日公開の『おかえり、はやぶさ』まで続きます。
"ボロをまとったマリリン・モンロー"の映画的評価は何処に着地するのか、楽しみ楽しみ。